個人事業主とは何か?会社員との違いやメリット&デメリットについて

服部大

服部大

2021.01.12
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会社員を辞めて個人事業主となることを夢見ていても、給与や社会保険による会社員の安定した生活を捨てる決断は決して簡単ではありません。

「このタイミングで独立することが果たして正解なのか」

個人事業主となることで勤務先という後ろ盾がなくなり、己の身一つで勝負しなければならないからこそ、悩まずにはいられませんよね。結論から言えば、「○○円以上稼げるなら独立すべき」といった客観的な基準はありません。

しかし会社員との違いを理解することは、“自分はどう決断すべきか”を考える上での大きな助けとなるはずです。本記事では個人事業主について、会社員との違いに焦点を当てて解説します。


▼ 目次
1. 個人事業主とは?
1-1. 定義
1-2. フリーランスとの違い
1-3. 社長との違い
1-4. 個人事業主になる方法
2. 会社員とどちらがお得?
3. 個人事業主のメリット・デメリット
3-1. メリットについて
3-2. デメリットについて
4. 個人事業主と法人設立はどちらが良いの?
4-1. 税金の違い
4-2. 社会保険制度
4-3. 開業(設立)費用
4-4. 社会的信用
5. まとめ


 

個人事業主とは?

まずは「個人事業主」はどのような状態を指すのか、混同しやすいフリーランスなどとの違いも含めて整理します。
 

定義

個人事業主とは、法人を設立せずに“個人で事業を営んでいる人”を指します。

ここで言う「事業」とは、自宅の不用品を処分するような突発的なものではなく、いわゆる“商売”としての継続的な取引を前提としています。

また「事業」とするにはお給料並みのまとまった収入を得ることも要件となるため、お小遣い稼ぎの副業では個人事業主には該当しません。
 

フリーランスとの違い

フリーランスとは、実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者を指す言葉です。一方、特定の団体や組織に雇われていない人の中で、法人を設立せずに個人で事業をおこなっている人のことを個人事業主と呼びます。

両者を同じような意味で用いるケースもありますが、個人事業主は開業届を出す際に法人と区別するために使う呼び方で、フリーランスは働き方の種類を指すものです。

そのため、「パソコンさえあればどこでも自由に働ける」というフリーランスの働き方は、個人事業主と法人の1人社長の両方に当てはまることがあります。
 

社長との違い

社長というのはあくまで社内での呼び方であり、会社法上の名称ではありません。

会社法では企業のトップを表すものとして“代表取締役”が挙げられますが、一般的にはこの“代表取締役”のことを社長と呼んでいます。この取締役は法人特有の概念であるため、個人事業主には存在しません。

したがって個人事業主を「社長」と呼ぶことは厳密には正しいとは言えませんが、一種のニックネームとして用いられることも少なくないでしょう。
 

個人事業主になる方法

個人事業主として開業する場合には、開業届の提出や社会保険の手続きが必要となります。
これらの手続きに関しては別記事で詳しく解説していますので、以下のリンクをご参考頂ければ幸いです。

 
 

会社員とどちらがお得?

それでは同じような稼ぎを前提として、会社員と個人事業主では手取額にどれくらいの差があるのか、具体的な数字を用いてシミュレーションしてみましょう。

会社員と個人事業主を比較してみよう

 

会社員・・・【給与年収(額面):500万円】
個人事業主・・・【事業所得(売上-経費):500万円】

会社員 個人事業主
1. 基準となる年収または所得 500万円 500万円
2. 給与所得控除額 144万円 なし
3. 青色申告特別控除額 なし 65万円
4. 所得金額(1-2-3) 356万円 435万円
5. 社会保険料控除額 約73万円 約82万円
6. 基礎控除額 48万円 48万円
7. 課税所得金額(4-5-6) 235万円 305万円
8. 所得税額 約14万円 約21万円
9. 事業税 なし 約11万円
10. 税額合計(8+9) 約14万円 約32万円


会社員
1. 基準となる年収または所得 500万円
2. 給与所得控除額 144万円
3. 青色申告特別控除額 なし
4. 所得金額(1-2-3) 356万円
5. 社会保険料控除額 約73万円
6. 基礎控除額 48万円
7. 課税所得金額(4-5-6) 235万円
8. 所得税額 約14万円
9. 事業税 なし
10. 税額合計(8+9) 約14万円
個人事業主
1. 基準となる年収または所得 500万円
2. 給与所得控除額 なし
3. 青色申告特別控除額 65万円
4. 所得金額(1-2-3) 435万円
5. 社会保険料控除額 約82万円
6. 基礎控除額 48万円
7. 課税所得金額(4-5-6) 305万円
8. 所得税額 約21万円
9. 事業税 約11万円
10. 税額合計(8+9) 約32万円

会社員の場合には社会保険料と税金を合わせて73万円+14万円=約87万円となる一方で、個人事業主の場合には82万円+32万円=約114万円の負担となっています。

この結果を見れば「会社員の方が得」と感じるでしょうが、実際には一筋縄ではいきません。

なぜなら今回は会社員と条件を揃えるために事業所得(売上-経費)が500万円と仮定しましたが、たとえば自宅兼事務所で開業した場合には、使用実態に合わせて自宅家賃や水道光熱費、携帯電話代など、生活費の一部を経費で落とすことも可能となるためです。

たとえば上表とは別に、生活費として以下の支出があると仮定し、経費に算入しない場合とする場合で個人事業主の事業所得を計算してみます。

経費が使えない場合 経費が使える場合
家賃 120万円
(月10万円×12月)
60万円
(月10万円×12月×50%)
水道光熱費 24万円
(月2万円×12月)
12万円
(月2万円×12月×50%)
携帯電話代 12万円
(月1万円×12月)
6万円
(月1万円×12月×50%)
車両関連費 24万円
(月2万円×12月)
12万円
(月2万円×12月×50%)
合計 180万円 90万円


経費が使えない場合
家賃 120万円
(月10万円×12月)
水道光熱費 24万円
(月2万円×12月)
携帯電話代 12万円
(月1万円×12月)
車両関連費 24万円
(月2万円×12月)
合計 180万円
経費が使える場合
家賃 60万円
(月10万円×12月×50%)
水道光熱費 12万円
(月2万円×12月×50%)
携帯電話代 6万円
(月1万円×12月×50%)
車両関連費 12万円
(月2万円×12月×50%)
合計 90万円

これを加味すると、先ほどのシミュレーション結果は以下のように変化します。

経費を算入して会社員と個人事業主を比較すると
会社員 個人事業主
1. 基準となる年収または所得 500万円 500万円
2. 給与所得控除額 144万円 なし
3. 経費追加分 なし 90万円
4. 青色申告特別控除額 なし 65万円
5. 所得金額(1-2-3-4) 356万円 345万円
6. 社会保険料控除額 約73万円 約52万円
7. 基礎控除額 48万円 48万円
8. 課税所得金額(5-6-7) 235万円 245万円
9. 所得税額 約14万円 約15万円
10. 事業税 なし 6万円
11. 税額合計(9+10) 約14万円 約21万円


会社員
1. 基準となる年収または所得 500万円
2. 給与所得控除額 144万円
3. 経費追加分 なし
4. 青色申告特別控除額 なし
5. 所得金額(1-2-3-4) 356万円
6. 社会保険料控除額 約73万円
7. 基礎控除額 48万円
8. 課税所得金額(5-6-7) 235万円
9. 所得税額 約14万円
10. 事業税 なし
11. 税額合計(9+10) 約14万円
個人事業主
1. 基準となる年収または所得 500万円
2. 給与所得控除額 なし
3. 経費追加分 90万円
4. 青色申告特別控除額 65万円
5. 所得金額(1-2-3-4) 345万円
6. 社会保険料控除額 約52万円
7. 基礎控除額 48万円
8. 課税所得金額(5-6-7) 245万円
9. 所得税額 約15万円
10. 事業税 6万円
11. 税額合計(9+10) 約21万円

上図のように生活費の一部を経費として算入した場合には、社会保険料と税金を合わせて52万円+21万円=約73万円まで圧縮され、会社員の場合の87万円を下回りました。

 

(厳密には事業税も経費とすることが可能ですので、税金や社会保険料の負担はさらに減額されます。)

このシミュレーションからもわかるとおり、「○○万円以上稼げるなら個人事業主がお得! 」というように、会社員と個人事業主の損得の境界線を明確にすることは事実上不可能であり、個々の経費の内容などもしっかりと考慮しなければ判断ができないということです。

いずれにせよ、上記の計算過程は各々の事例で検証を行う際の大切な考え方であることには違いありませんので、ぜひ覚えておいてください。
 
 

個人事業主のメリット・デメリット

具体的な数字を用いてシミュレーションを行いましたが、ここからは金銭面以外にも触れながら、会社員と比較してのメリットやデメリットを整理していきます。
 

メリットについて

経費が使える

まずは税金面でのメリットとして、先ほどのシミュレーションのように、個人事業主は経費を計上することによって納税額を減らすことが可能となります。

会社員の給与所得については原則として経費計上が認められないため、個人事業主の方が節税の幅が広がります。
 

青色申告の特典を享受できる

続いても税金面でのメリットですが、個人事業主として開業することで「青色申告」を行うことが可能となります。

この青色申告では、事業に従事する親族に給与を支払うことや“青色申告特別控除”として経費に上乗せができるなど、様々な恩恵を享受できます。
 

働いた分がダイレクトに収入へ繋がる

心理面のメリットとしては、仕事をたくさんこなすほど収入が増えるため、モチベーションをアップさせやすい点が挙げられます。

毎月の収入について「安定だが変動が少ない」会社員に対し、「不安定だが変動が大きい」個人事業主は一長一短と言えるでしょう。

しかしやればやるほど収入が増えることにやりがいを感じる方にとっては、大きなメリットとなるはずです。
 

働き方を自分で選択できる

筆者自身が個人事業主として働く中で感じる最大のメリットはこちらです。

所属する組織の風土を尊重しなければならない会社員に対し、個人事業主の場合には仕事内容や仕事量、職場環境のすべてを自分で決定できます
 

プライベートを返上して仕事に没頭するのも良し

ワークライフバランスを重視してマイペースに働くのも良し

人を雇って規模を拡大するのも、1人で自由に働くのも良し

 

このように“自分の「働きたい」を実現すること”が個人事業主の醍醐味だと感じています。
 

デメリットについて

一般的に確定申告が必要

まずは税金面ですが、勤務先による年末調整で完結する会社員に比べ、個人事業主の場合には自分で確定申告を行う必要があるため、手続きはより煩雑になります。

また確定申告を行うためには日々の経理を行う必要があるため、不慣れな場合には一定の時間を取られてしまうこととなるでしょう。
 

失業保険が出ない

失業保険は雇用保険に加入することによって支給されるものであり、誰からも雇用されない個人事業主の場合には失業保険を受け取ることはできません。

個人事業主の場合、自由度が増すことの対価として自己責任の範囲も拡大します。

失業保険をはじめ、公的な支援を受けられない部分については、民間保険を活用したり、小規模企業共済や国民年金基金、iDeCoなどにより資金を蓄えておくなどの対策を自分自身で講じる必要があります。
 

社会的信用度が低下

近年では“終身雇用制度の崩壊”が叫ばれていることもあり、「会社員=安定」という概念も少しずつ揺らぎ始めていますが、それでも個人事業主に比べれば社会的信用度は高いと言えるでしょう。

反対に個人事業主は“不安定”というイメージが強いため、住宅ローンを組んだり、クレジットカードを作ったりする際には足かせとなることも少なくないのです。
 

安定した収入が得られないリスク

会社員にとって毎月最低限の給与収入が約束されていることは大きなメリットである一方、個人事業主の場合には売上の増減が起こりやすく、安定収入を確保することは容易ではありません。

そのため収入が少ない時期は「住宅ローンの返済が厳しい」、「生活費が支払えない」などのように、自身や家族の生活にも影響を及ぼすリスクも自ずと高くなることでしょう。
 

個人事業主と法人設立はどちらが良いの?

ここまでは個人事業主と会社員を比較してきましたが、仮に起業を決意した場合、個人と法人のどちらが良いのか迷う方も少なくないでしょう。

ここでは個人事業主と法人の違いについて整理します。
 

税金の違い

個人事業主の場合には“所得税”、法人の場合には“法人税”が主として課税されます。

所得税では5~45%の7段階の税率(超過累進税率)であるのに対し、法人税では中小法人の場合には15%と23.2%の2段階の税率となります。

したがって「所得の少ないうちは個人事業主、所得が増えてきたら法人化」が一般的ですが、税率だけでなく計算過程も異なるため、法人化を検討する際には税理士などの専門家にシミュレーションの依頼をすることをお勧めします。
 

社会保険制度

個人事業主の場合には国民健康保険や国民年金に加入しますが、法人の場合には社会保険(健康保険+厚生年金)に加入することとなります。

各々で保険料のもととなる金額が異なるため一概に損得を判断することはできませんが、年金に関しては厚生年金の方が二階建て構造のため、老後の年金額は手厚くなる傾向にあります。
 

開業(設立)費用

個人事業主の場合には開業届を作成し、税務署へ提出するだけで開業は可能ですが、法人を設立する場合には登記手続きが必要となります。

なお登記費用については、株式会社の場合には20万円以上かかるケースが一般的です。
 

社会的信用

個人事業主と比較し、法人は社会的信用が増す傾向にあります。

事業資金として融資を受ける場合だけでなく、取引先からの信用力にも差が生ずることもあり、実務上は業務を拡大するために法人化が必要となるケースも少なくありません。
 
 

まとめ

今回は個人事業主について、会社員との違いに着目して解説をしました。

起業・独立を決意する際には、夢や希望などの損得以外の要素が大きく影響するものだと思いますが、「個人事業主となることでどのような違いが生まれるのか」についてもきちんと理解するようにしましょう。
 

服部大
この記事を書いた人

服部大

2020年2月、30歳のときに愛知県名古屋市内にて税理士事務所を開業。
 

平均年齢が60歳を超える税理士業界内で数少ない若手税理士として、同年代の経営者やフリーランス、副業に取り組む方々にとっての良き相談相手となれるよう日々奮闘している。
 

顧問業務だけでなくスポットでの税務相談や執筆活動も行っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えることができる専門家を志している。
 
> 服部大税理士事務所