個人事業主が申請できる補助金や助成金について

服部大

服部大

2021.09.09
個人事業主が申請できる補助金や助成金について イメージ

インターネットやクラウドサービスの普及に伴い、全国的にテレワーク需要が高まっており、国としても補助金や助成金の支給によって、事業者のテレワーク導入を積極的に支援しています。

このような公的制度は大企業や中小企業だけでなく、要件に当てはまれば個人事業主やフリーランスでも受給できる可能性があります。

今回は個人事業主やフリーランスが使えるIT導入補助金、人材確保等支援助成金について解説します。


▼ 目次
1. 【従業員がいない場合】IT導入補助金
1-1. 制度の概要
1-2. 補助対象となる経費
1-3. 補助金額や補助率
1-4. 手続きの流れ
1-5. 注意すべきポイント
2. 【従業員がいる場合】人材確保等支援助成金(テレワークコース)
2-1. 制度の概要
2-2. 助成対象となる取組み
2-3. 助成額
2-4. 手続きの流れ
2-5. 注意すべきポイント
3. まとめ


 

【従業員がいない場合】IT導入補助金

従業員を雇用せずフリーランスとして働く場合には、テレワークのためのITツール導入を行う際に経済産業省による「IT導入補助金」を活用することができます。
 

制度の概要

IT導入補助金は、従業員の有無にかかわらずITツールを導入することで業務効率化や売上アップを図る中小企業や小規模事業者等を支援するための制度です。

たとえば手作業や手入力で行う業務に対して専用のソフトウェアを導入したり、顧客獲得のために新たにECサイトやオンラインサービスを始めるなどが該当します。

なおIT導入補助金では、以下のとおり「通常枠(A・B類型)」と「低感染リスク型ビジネス枠(C・D類型)」の2つから構成されており、どちらに該当するかによって補助対象となる経費や補助率、補助金額が異なります。

通常枠(A・B類型)について

非効率な業務プロセスについて、ITツールを導入することで効率化を図り、生産性向上に取り組む場合などに適用されます。

たとえば見積書や請求書の発行や競合他社の情報収集、会計処理、在庫管理などのルーティンワークについて、新たに専用のソフトウェアを導入して業務効率化を図るようなケースが想定されます。

なおA類型とB類型については、顧客対応や在庫、会計、総務などの業務プロセスのうち、そのITツールが作用するプロセス数によって分類されます。


低感染リスク型ビジネス枠(C・D類型)について

労働生産性の向上だけでなく、感染症対策のための「非対面化ツール」の導入が必須となります。

非対面化ツールには従業員がテレワークを行うためのシステム導入だけでなく、顧客との接触機会を減らしたり、遠隔でのサービス提供を行うビジネスモデルへの転換も含まれるため、ECサイトやオンラインショップの開設、web配信のためのITツール導入費用も対象となります。

なおC類型については「顧客対応」や「決済」機能を持つECサイトのように、異なる業務プロセス間で連携が可能なツールを指します。一方でD類型についてはC類型以外の非対面型ITツールを指し、クラウド型のITツールが対象となります。
 
 

補助対象となる経費

補助金の対象となる経費は、以下のとおりです。

通常枠:ソフトウェアの購入費用及び関連する費用(セキュリティや保守サポートなど)
 
低感染リスク型ビジネス枠:上記に加え、ハードウェアのレンタル費用

このように低感染リスク型ビジネス枠では、非対面化ツールとしてパソコンやタブレット、スマートフォンなどのレンタル費用(購入は不可)も含まれ、補助対象経費の範囲が拡大されています。
 
 

補助金額や補助率

補助金として交付される金額や補助率は以下のとおりです。

通常枠

補助率:1/2
補助金額:A類型30~150万円未満、B類型150~450万円以内

低感染リスク型ビジネス枠

補助率:2/3
補助金額:C類型30~450万円以内、D類型30~150万円以内

このように低感染リスク型ビジネス枠の方が通常枠よりも補助率が高く設定されており、国としても非対面化ツールの導入を後押しする姿勢が伺えます。
 
 

手続きの流れ

実際の申請手続きは、以下の順序で行います。なおIT導入支援事業者とは、ITツールの提案や導入を支援するITベンダーとして、あらかじめ登録を受けた事業者です。

・自身の課題やニーズに合わせて、IT導入支援事業者及び導入するITツールを選定
 
・IT導入支援事業者と共同で交付申請書を作成し、事務局へ提出
 
・補助金の交付決定を受けた後、ITツールの発注、契約、支払い
 
・事業実績報告書を作成し、事務局へ提出
 
・事業実績報告書に基づき、補助金を交付
 
・事業実施効果報告を作成し、事務局へ提出

 
 

注意すべきポイント

IT導入補助金の申請を行う場合には、以下の点にご注意ください。
 

ITツールはIT導入支援事業者から購入、レンタルしなければならない

導入するITツールは、IT導入支援事業者として登録を受けたITベンダーから取得しなければなりません。したがって事業者が家電量販店やネット通販などで独自に購入したものに関しては、補助金の対象外となりますのでご注意ください。

なおIT導入支援事業者や、それぞれのIT導入支援事業者が提供しているITツールに関しては、IT導入補助金のウェブサイトより検索することができます。


要件を満たしていても必ず交付されるとは限らない

後述する人材確保等支援助成金(テレワークコース)のように、一般的な助成金制度は交付要件さえ満たせば助成金を受給することができます。しかし補助金制度の場合には、交付要件を満たしていても受給できるとは限らず、一定割合は不採択となります。

採択率は補助金制度の種類や申請者数によって異なりますが、IT導入補助金の場合には4~5割程度といわれています。


原則として、交付決定後でないと導入できない

IT導入補助金については、実際にツールを導入する前に申請書を提出し、交付決定を受ける必要があります。

ただし低感染リスク型ビジネス枠の中には申請前に購入したITツールに関しても、遡及して補助対象に含められるケースもありますので、詳細についてはIT導入補助金2021の公募要領をご確認ください。

 
 

【従業員がいる場合】人材確保等支援助成金(テレワークコース)

従業員を雇用する中小企業や個人事業主がテレワークを新たに導入する場合、厚生労働省によって令和3年4月1日に創設された「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」の対象となる可能性があります。
 

制度の概要

人材確保等支援助成金(テレワークコース)では、テレワーク導入のためのネットワークやセキュリティ機器、web会議用のマイクやカメラ等を購入した事業者に対し、それらの費用の一部が助成されます。

なお令和2年度も同様の制度がありましたが、以前はテレワーク設備の導入自体を対象とした制度だったのに対し、今回創設された新制度ではテレワークの導入だけでなく、それに基づく人材の確保や定着を目的としています。

つまりテレワーク導入を通じてより良い職場を作り、人材の定着に貢献した事業者に助成金が支給される制度です。
 
 

助成対象となる取組み

人材確保等支援助成金(テレワークコース)では、以下のいずれかの取組が助成対象となります。なお括弧内の金額は支給対象経費の上限額となります。

・就業規則、労働協約、労使協定の作成・変更(10万円)
 
・外部専門家によるコンサルティング(30万円)
 
・テレワーク用通信機器の導入、運用(導入機器の内容によって変動)
 
・労務管理担当者に対する研修(10万円)
 
・労働者に対する研修(10万円)

上記のとおり、テレワーク用の機器導入費用だけでなく、従業員への周知や研修に関する費用も助成の対象となります。

なお制度の詳細については、厚生労働省の「人材確保等支援助成金」支給要領をご確認ください。
 
 

助成額

人材確保等支援助成金(テレワークコース)では、以下のように2つの要件ごとに支給額が決定されます。

機器等導入助成

テレワーク環境を整備し、実際にテレワークを実施することが第一の要件となります。

具体的には、就業規則を整備し、先述した「助成対象となる取組」を実施した上で、1回以上労働者全員がテレワークを実施することなどが条件となります。

この要件を満たす場合の支給額は、支給対象経費の30%となります。


目標達成助成

テレワーク導入により、離職率低下を実現することが第二の要件となります。

具体的には、導入後の離職率が30%以下かつ導入前の離職率以下であることなどが条件となります。

この要件を満たす場合の支給額は、支給対象経費の20%となります。

なお「機器等導入助成」、「目標達成助成」のいずれも、100万円または20万円×対象労働者数のいずれか低い方の金額が支給額の上限となります。

したがって人材確保等支援助成金(テレワークコース)では、上記2つの要件を満たすことで、最大で100万円+100万円=200万円が支給されます。
 
 

手続きの流れ

実際の申請手続きは、以下の順序で行います。

・テレワーク実施計画を作成し、労働局へ提出
 
・管轄労働局がテレワーク実施計画を認定
 
・実施計画に基づき、取組を実施
 
・機器等導入助成の支給申請書を労働局へ提出
 
・目標達成助成の支給申請書を労働局へ提出
 
・助成金の支給

 

注意すべきポイント

人材確保等支援助成金(テレワークコース)については、先述したIT導入補助金とは異なり、要件さえ満たせば必ず受給できます。

ただし事前に実施計画を提出し、認定を受けた上で実行に移す必要があることから、テレワーク導入に向けてスケジュールに余裕のある事業者が対象となるでしょう。

対照的に、早急にテレワークを導入したい事業者には利用が難しい制度となります。
 
 

まとめ

今回は個人事業主やフリーランスがテレワークを導入した場合に使える補助金や助成金制度について解説しました。

ご紹介した2つの制度はいずれも返済不要の支援制度であるため、受給できれば自己負担額を大きく減らすことができます。

テレワーク環境を導入する予定があれば、補助金や助成金申請ができないかどうか、ぜひ一度ご確認ください。
 

服部大
この記事を書いた人

服部大

2020年2月、30歳のときに愛知県名古屋市内にて税理士事務所を開業。
 

平均年齢が60歳を超える税理士業界内で数少ない若手税理士として、同年代の経営者やフリーランス、副業に取り組む方々にとっての良き相談相手となれるよう日々奮闘している。
 

顧問業務だけでなくスポットでの税務相談や執筆活動も行っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えることができる専門家を志している。
 
> 服部大税理士事務所