個人事業主が加入できる健康保険といえば「国民健康保険」が知られていますが、ほかの選択肢として「国民健康保険組合」があります。
国民健康保険組合は国民健康保険と名前が似ていますが知名度が低く、仕組みや保険料が異なります。また住んでいる地域や事業内容によっては、希望しても加入できないこともあります。
そこで今回は両者の違いについて、具体的にご説明します。
▼ 目次
1. 国民健康保険組合とは?
2. 国民健康保険と国民健康保険組合の違いとは?
2-1. 加入対象者
2-2. 保険料
2-3. 給付内容
2-4. 主な国保組合と保険料
3. 加入前にチェック!国保組合の注意点
3-1. 扶養がない
3-2. 同一世帯で国保と国保組合に入れない
3-3. 自分にあった健康保険を選ぼう
4. まとめ
会社を退職すると、それまで加入していた会社の健康保険の資格を喪失します。
そのまま何もしなければ保険証も使えなくなるため、医療機関にかかった際に全額自己負担となり、窓口で高額な医療費を支払わなければいけなくなります。
そこで個人事業主になる際は、次の4つの健康保険のうちから1つを選んで加入します。
・国民健康保険(国保)
・会社の健康保険の任意継続
・家族の健康保険の被扶養者
・国民健康保険組合(国保組合)
国民健康保険は主に無職の人や学生、自営業者が加入する保険です。
市区町村が運営しており、住んでいる地域の国保に加入できます。保険料は前年度の所得に応じて決まります。
会社の健康保険は条件を満たした場合、退職後も継続して加入できます。
ただし保険料は全額自己負担になり、加入期間も退職後2年間に制限されています。
配偶者など家族が務める会社の健康保険の被扶養者になることも可能です。
なお加入には「年収130万円未満」などの条件がありますので、健康保険組合に確認が必要です。
建設業や医師、薬剤師、税理士、芸術家など、事業や業種、地域別に組織された組合が運営している健康保険です。全国に161組合あります(2020年4月時点)。
国保組合も自治体が運営する国民健康保険と同じ、国民健康保険の一種です。ただし一般的には「国民健康保険」といえば国保、「国民健康保険組合」という場合には国保組合を指します。
フリーランスが加入できる健康保険については、別の記事で詳しく説明しています。
国保と国保組合は、次のように大きな違いがあります。
国保は、会社の健保に加入している人や後期高齢者医療制度の対象者などを除いた、すべての人が加入できます。
一方で国保組合は、住んでいる地域や業種・職種によって、加入対象者が制限されています。そのため希望したからといって、必ずしも入れるとは限りません。
組合ごとに加入条件は異なりますが、どの組合も必須条件は「特定の業種・職種に従事している」ことです。
そのほかには、組合によっては次のような条件を設定しています。
・指定団体に所属している
・指定地域で事業を営んでいる・従事している
・指定地域に住んでいる
例えば文芸美術国保組合の場合、日本国内であれば居住地は問いませんが、文芸や美術などの仕事をしていて、組合加盟団体の会員でもあることが条件です。
東京美容国保組合の場合は、東京都内の事業所で美容の仕事をしていることが前提ですが、居住地は東京都以外でも神奈川・千葉・さいたま・茨城・山梨(一部)であればOKです。
国保の保険料は住んでいる地域よって差がありますが、どこの地域でも前年の所得額に基づいて算出されています。そのため前年の所得が上がれば、原則として保険料も上がります(上限はあります)。
一方で国保組合の場合、保険料は年齢や資格によって決まり、原則として所得額の増減の影響を受けません。
例えば「東京食品販売国民健康保険組合」では、次のようになっています。
・事業主組合員(世帯人数1人):月額 2万1,700円
・従業員組合員(世帯人数1人):月額 1万3,100円
「建設連合組合健康保険組合」では次のようになっています。
・19歳以下:月額 6,900円
・20〜24歳:月額 9,000円
・25〜29歳:月額 1万1,000円
上記のように組合ごとに保険料は大きく異なります。また組合の収支状況を受けて保険料が改定されることがあるほか、前年度の所得に応じて変動したり、所得割があったりする組合もあります。
国保と国保組合の医療費の窓口負担は原則3割です。また高額療養費制度や出産一時金制度もあります。
ただしそのほかの手当については、国保組合の方が手厚いケースがあります。
例えば出産手当金や傷病手当金は国保にはありませんが、「東京美容国民健康保険組合」にはあります。加えて年に一度、組合員に保険医薬品を無償配布しています。
健康診断や人間ドック、予防接種の費用補助をしている組合も少なくありません。
個人事業主・フリーランスが加入する可能性がある主な国保組合をご紹介します。保険料も掲載しておきますので、参考にしてください。
イラストレーター、カメラマン、ライターなどの文芸や美術、著作活動に従事する人のための国保組合
(http://www.bunbi.com/)
医療分 | 月額 1万6000円 |
---|---|
後期高齢者支援金分(〜74歳) | 月額 3,900円 |
介護分(40〜64歳) | 月額 4,300円 |
<計算例>
・30歳 1万6,000円+3,900円=1万9,900円
・40歳 1万6,000円+3,900円+4,300円=2万4,200円
東京都内の美容室などで、美容業務をしている人のための国保組合
(http://www.kokuho-tokyobiyo.or.jp/hokenryo/index.html)
医療分 | 月額 1万5,500円 |
---|---|
後期高齢者支援金分(〜74歳) | 月額 3,500円 |
介護分(40〜64歳) | 月額 3,000円 |
<計算例>
・30歳 1万5,500円+3,500円=1万9,000円
・40歳 1万5,500円+3,500円+3,000円=2万2,000円
東京都内に店舗がある、食品業で働く個人事業主と従業員のための国保組合
(https://www.toshoku-kokuho.or.jp/subscription)
医療分 | 月額 1万8,700円 |
---|---|
後期高齢者支援金分(〜74歳) | 月額 3,000円 |
介護分(40〜64歳) | 月額 3,500円 |
<計算例>
・30歳 1万8,700円+3,000円=2万1,700円
・40歳 1万8,700円+3,000円+3500円=2万5,200円
東京弁護士会など指定の弁護士会に所属する弁護士と法律事務所職員のための国保組合
(http://www.bengoshi-kokuho.or.jp/02guide/02.html)
医療分 | 月額 2万1,300円 |
---|---|
後期高齢者支援金分(〜74歳) | 月額 4,500円 |
介護分(40〜64歳) | 月額 5,300円 |
<計算例>
・30歳 2万1,300円+4,500円=2万5,800円
・40歳 2万1,300円+4,500円+5,300円=3万1,100円
神奈川県内で個人飲食店を営む事業主と従業員のための国保組合
(http://www.kf-kokuho.or.jp/hokenryo.html)
医療分 | 月額 1万1,800円 |
---|---|
後期高齢者支援金分(〜74歳) | 月額 2,900円 |
介護分(40〜64歳) | 月額 2,600円 |
<計算例>
・30歳 1万1,800円+2,900円=1万4,700円
・40歳 1万1,800円+2,900円+2,600円=1万7,300円
大阪府内で市場やスーパーなどの小売業かつ個人事業所で働く人のための国保組合
(http://www.ichibakokuho.or.jp/org/hokenryou.html)
医療分 | 月額 1万7,700円 |
---|---|
後期高齢者支援金分(〜74歳) | 月額 2,500円 |
介護分(40〜64歳) | 月額 3,000円 |
<計算例>
・30歳 1万7,700円+2,500円=2万200円
・40歳 1万7,700円+2,500円+3,000円=2万3,200円
近畿税理士会の会員である税理士や税理士事務所で働く職員のための国保組合
(https://www.kinzei-kokuho.or.jp/hokenryou/index.html)
医療分 | 月額 2万9,400円 |
---|---|
後期高齢者支援金分(〜74歳) | 月額 4,400円 |
介護分(40〜64歳) | 月額 5,200円 |
<計算例>
・30歳 2万9,400円+4,400円=3万3,800円
・40歳 2万9,400円+4,400円+5,200円=3万9,000円
会社の健康保険から国保や国保組合に切り替える場合には、注意すべき点があります。
国保と国保組合には、扶養の概念がありません。そのため世帯主が国保組合に加入していたとしても、その家族が加入する場合はそれぞれ保険料を支払わなければいけません。
つまり加入する家族の人数が増えれば増えるほど、家系の負担が増すのです。ただし家族の保険料は、組合員本人よりも低くなるケースが多い傾向にあります。
例えば「東京美容国民健康保険組合」の場合、30歳未満の「事業主組合員」の保険料は月額1万9,000円ですが、「同一世帯家族」については月額8,500円、「同一世帯家族で未就学児」については月額5,000円です。
一方で会社の健康保険の場合、通常は被扶養者の保険料は免除されます。妻や子どもが夫の会社の健保の被扶養者になった場合、保険料は夫の分だけでいいのです。
この点は健康保険に比べた際の、国保と国保組合のデメリットと言えるでしょう。
同一世帯内で、国保と国保組合にバラバラに入ることはできません。
世帯単位での加入となるため、「夫は国保組合、妻は国保」といった加入の仕方はできないのです。もちろん会社の健保や共済組合と二重に加入することもできません。
ただし「夫は国保組合、妻は会社の健保」といった方法は可能です。
国保か国保組合か、どちらかに統一しなければいけないため、加入前に家族とよく話し合っておきましょう。
会社員と違って、個人事業主には加入できる健康保険に複数の選択肢があります。どれに加入するかは保険料や手当などを吟味して慎重に検討することが大事です。
筆者の私見ですが、収入が少ないうちは自己負担がゼロですむ家族の健保の扶養に入ることがおすすめです。その後収入があがり、扶養から外れなければいけなくなった際には国保と国保組合を比較して選びましょう。
なお健康保険は経費にはできませんが、全額所得控除の対象です。節税につながりますので、必ず確定申告をしましょう。
すでに国保などに加入している場合、健康保険を乗り換えるのは面倒に思えるかもしれませんが、毎月・毎年払い続ける保険料は、合計するとかなりの金額になります。少しでも安くなるのであれば、事業運営のうえでも助かるでしょう。
主な国保組合は「全国国民健康保険組合協会」のホームページに掲載されていますので、ご自分が加入できるものがあるかチェックしてみてください。
にしみねひろこ
フリーライター。6年半の報道記者経験を活かして、インタビューや各種コラム、取材、企画・広告記事、プレスリリースなどを執筆している。主な執筆分野は法律、医療、経済、人事、子育て・生活。
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