個人事業主になるのは難しいと思っていませんか?実はとても簡単。開業届を税務署に出すだけです。
とはいえ思いつきで会社を辞めて個人事業主になるのはおすすめできません。個人事業主は帳簿付や確定申告などの手続きが必要になるほか、退職時にトラブルになればその後の事業に影響がでる可能性もあるからです。
そこで本記事では、個人事業主として開業した際の具体的な手続きと注意点をご紹介します。
▼ 目次
1. 個人事業主とは?
1-1. 個人事業主の定義
1-2. 副業、兼業でも個人事業主になれる
2. 個人事業主になるための手続き
2-1. 開業までにすべきこと
2-2. 開業後にすべきこと
3. 個人事業主になったら確定申告をしよう
3-1. 確定申告が必要な人
3-2. 確定申告の準備と流れ
4. 個人事業主になる際の注意点
5. まとめ
近年、副業が注目を集めるなかで「個人事業主」になることを考える人が増えています。ではそもそも個人事業主とはどんな立場なのでしょうか?
個人事業主とは税務署に開業届を出し、法人を設立せずに個人で事業を行っている人のことです。
この「事業」とは継続・反復・独立して行われているものを指すため、例えば家にある不用品を販売して臨時収入を得ただけでは個人事業主には当たりません。
弁護士や税理士、個人経営の飲食店や美容院、イラストレーター、エンジニア、ライターなどに多い傾向があります。
よくフリーランスと混同されますが、フリーランスの定義は「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」の働き方を指します。
フリーランスは働き方の種類をあらわすので、個人事業主と法人の1人社長の両方の人がフリーランスという働き方をしているということができます。
個人事業主については、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
個人事業主になるために収入や資格などの要件はありません。開業届を出せば、誰でもなれます。
会社員であっても会社が副業を許可していれば可能です。副業である程度の収入が継続して得られるようになった場合は、青色申告特別控除など税務上のメリットもあるので開業届の提出・青色申告も考えましょう。
なお会社が副業を禁止している場合、内緒で副業をしていると、発覚した際に処分を受ける可能性があります。
「バレなければいい」と思うかもしれませんが、同僚が上司に報告したり、住民税額がアップしたことに会社が気づいたりしてバレることは珍しくないので注意してください。
もし会社を退職して個人事業主になる場合は、「退職」と「開業」でそれぞれ手続きが必要です。順番に確認していきましょう。
手続き | 期限 | 担当窓口 | 必要書類 | |
---|---|---|---|---|
退職 | 退職届の提出 | 退職希望日の1カ月〜2週間前 | 勤務先 | 退職届 |
国保 | 国民健康保険への切り替え | 退職翌日から14日以内 | 市区町村役場の健康保険窓口 | 健康保険資格喪失証明書、身分証明書、印鑑 |
社保の任意継続 | 会社の健康保険の任意継続 | 退職翌日から20日以内 | 会社の健康保険組合 | 任意継続被保険者資格取得申請書 |
年金 | 国民年金の切り替え | 退職翌日から14日以内 | 市区町村役場の国民年金窓口 | 年金手帳、身分証明書、離職票など退職日の確認できる書類 |
開業届 | 開業届の提出 | 事業開始から1カ月以内 | 納税地を管轄する税務署 | 開業届、マイナンバーカードまたは通知カード、身分証明書 |
青色申告 | 青色申告承認申請書の提出 | 3月15日まで、または事業開始2カ月以内 | 納税地を管轄する税務署 | 青色申告承認申請書 |
手続き | |
---|---|
退職 | 退職届の提出 |
健康保険 | 国民健康保険への切り替え |
健康保険 | 会社の健康保険の任意継続 |
年金 | 国民年金の切り替え |
開業届 | 開業届の提出 |
青色申告 | 青色申告承認申請書の提出 |
期限 | |
退職 | 退職希望日の1カ月〜2週間前 |
国保 | 退職翌日から14日以内 |
社保の任意継続 | 退職翌日から20日以内 |
年金 | 退職翌日から14日以内 |
開業届 | 事業開始から1カ月以内 |
青色申告 | 3月15日まで、または事業開始2カ月以内 |
担当窓口 | |
退職 | 勤務先 |
国保 | 市区町村役場の健康保険窓口 |
社保の任意継続 | 会社の健康保険組合 |
年金 | 市区町村役場の国民年金窓口 |
開業届 | 納税地を管轄する税務署 |
青色申告 | 納税地を管轄する税務署 |
必要書類 | |
退職 | 退職届 |
国保 | 健康保険資格喪失証明書、身分証明書、印鑑 |
社保の任意継続 | 任意継続被保険者資格取得申請書 |
年金 | 年金手帳、身分証明書、離職票など退職日の確認できる書類 |
開業届 | 開業届、マイナンバーカードまたは通知カード、身分証明書 |
青色申告 | 青色申告承認申請書 |
個人事業主になる際の基本的な流れ、手続きは以下の通りです。
個人事業主になるためには、税務署に「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」を提出しなければいけません。
税務署の窓口や国税庁のホームページから書類を入手し、事業開始から1カ月以内に納税地を管轄する税務署に提出しましょう。
具体的な開業届の書き方については、こちらの記事をご覧ください。
主な退職手続きは以下の通りです。
また退職の際は会社から以下の書類を受け取りましょう
会社員から個人事業主になる場合、国民年金の切り替えが必要です。会社が年金手帳を預かっていた場合は退職時に受け取りましょう。
源泉徴収票は、年末調整前に退職をした場合に確定申告をするために必要です。
なお退職はするもののすぐに個人事業主になると決意しておらず、求職活動をする可能性がある場合には「離職票」や「雇用保険被保険者証」ももらいましょう。退職日を証明する書類としても役立ちます。
個人事業主は毎月一定の収入が約束されている会社員に比べて不安定と認識されており、社会的信用力は低いのが現状です。
そのため住宅ローンやランクの高いクレジットカード、賃貸住宅契約の審査では不利です。利用予定がある場合には、退職前に手続きすることを考えてください。
なお確定申告で青色申告を選択する場合には、事前に税務署に「所得税の青色申告承認申請書」を提出しなければいけません。
提出期限はその年の3月15日まで、または開業から2カ月以内です。難しい書類ではありませんので開業届と一緒に出しておきましょう。
青色申告には最大65万円の特別控除が受けられる、赤字を3年間繰り越せるなどのメリットがあります。
個人事業主は白色申告も可能ですが、こちらには特別控除がありません。
また以前は帳簿付けが不要でしたが、2014年分から仕組みが変わり青色申告とほぼ同じ帳簿付けが求められるようになりました。
あえて白色申告を選ぶ理由はほぼなくなったため、特段の理由がない限りは青色申告を選択しましょう。
事業内容や形態によってほかにも必要な届出がありますので、事前に確認しておきましょう。
もし退職して個人事業主になった場合、無事に開業届の提出を終えても、それですべての手続きが終わりではありません。開業後にもまだすべきことが残っています。
会社員は会社の健康保険に加入しますが、退職し個人事業主になったら国民健康保険に加入しましょう。手続き期限は退職日の翌日から14日以内です。退職後早めに役所で手続きしましょう。
なお国民健康保険以外に、会社の健康保険の任意継続も利用できます。継続手続き期限は退職翌日から20日以内です。具体的に必要な手続きは健康保険組合に確認しましょう。
健康保険についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
会社員を辞めたら厚生年金の資格を喪失します。
そこで国民年金を会社員などが加入する「第2号被保険者」から自営業者などが加入する「第1号被保険者」へ切り替える必要があります。
こちらも手続き期限は退職日の翌日から14日以内ですので、早めに手続きしましょう。
なお国民年金は厚生年金に比べて将来の年金受取額が少ないため、iDeCo(個人型確定拠出年金)などの活用も検討してみてください。
個人事業主になった際、最も気が重いのは確定申告ではないでしょうか。確定申告はきちんと準備しておけばスムーズに進みます。基本的な流れをみていきましょう。
確定申告とは前年(1月1日〜12月31日)の所得をまとめて所得税を計算し、税務署に報告する手続きです。
会社員の場合は会社が年末調整をして計算し、代わりに手続きしてくれますが、個人事業主は自分で行わなければいけません。
ただし個人事業主だからといって、絶対に確定申告が必要なわけではなく、そもそも納めるべき税金がなければ申告不要です。
例えば「収入より経費が多く赤字」「所得が基礎控除額(2020年分より48万円に引き上げ)以内」といったケースです。
確定申告期間は、原則として毎年「2月16日〜3月15日」です(新型コロナウイルスの影響により期限に変更があります)。
青色申告の作成・提出書類は以下の通りです。
大変そうに見えるかもしれませんが、普段から会計ソフトを使って収支の管理や帳簿付をしておけば、作成は難しくありません。書類がそろったら持参または郵送、e-Taxで納税地を管轄する税務署に提出しましょう。
なお税制改正により、2020年分から青色申告特別控除額が65万円から55万円に引き下げられました。
e-Taxによる電子申告または電子帳簿保存を行えば控除額は10万円引き上げられて65万円になりますので、ぜひ活用してください。
開業1年目は、確定申告期間直前になって「領収書がない」「収支が合わない」「勘定科目がわからない」と慌てがちですので、できるだけ日常的に帳簿付けをしておきましょう。
副業で得た所得の確定申告については、こちらの記事で詳しく説明しています。
会社をやめて個人事業主になる際には、注意しておくべきポイントがあります。筆者の経験からいくつかご紹介します。
開業1年目は仕事がなかなか得られないなど、収入が不安定になりがちです。
また住民税は前年の会社員時代の収入をもとに計算されるため、個人事業主としての収入が少ないのに高い税金が課されて驚くかもしれません。初期投資としてパソコンなど高額な備品の購入が必要になる人もいるでしょう。
そのため、もし退職して個人事業主になるのであれば退職前にある程度貯金しておくことをおすすめします。難しい場合にはほかの仕事との掛け持ちも考えてみてください。
筆者も独立から1年程度は時間に融通が効くほかの在宅ワークをして、一定の収入を確保していました。
できるだけ早期に仕事を軌道に乗せるためには、事前の準備が大事です。退職前に少しずつ仕事を試してみる、交流会に参加し人脈作りをしておくなど、スムーズに仕事が始められるようにしておきましょう。
筆者も独立前にライター講座に参加してつながりを作りました。独立すると一人で仕事をする機会が多くなるため、外部との交流は情報共有のほか、精神的な安心感にもなりました。
また会社員時代と同じ業界で仕事をする場合には「退職時に会社ともめない」「社内や取引先にきちんとあいさつしておく」といった対応も大事です。前職のつながりで仕事をもらえることも珍しくないからです。
個人事業主というと不安定なイメージがあるため、会社を辞めて個人事業主になったことを夫や妻の両親に事後報告したところ、嫌な顔をされたという話はよく聞きます。特に上の世代ほどその傾向があります。
筆者は引っ越しなどにより独立を選択しましたが、家庭の大黒柱が会社員から個人事業主になる場合、ほかの家族は不安に思うかもしれません。
家族や周囲との関係が悪くなる原因ともなりかねませんので、可能であれば先に説明して家族の理解を得ておきましょう。
副業で安定して収入が得られるようになると、会社を辞めて個人事業主として独立することも考え始めるでしょう。
開業届を出すのは簡単ですが、退職から最初の確定申告までは面倒な手続きが続きます。開業年はそれらに追われることも多いので、退職前に基本的な流れを把握しておきましょう。
にしみねひろこ
フリーライター。6年半の報道記者経験を活かして、インタビューや各種コラム、取材、企画・広告記事、プレスリリースなどを執筆している。主な執筆分野は法律、医療、経済、人事、子育て・生活。
> ライターにしみねひろこWEB