新たな商品・サービスの開発や生産性アップのためのIT導入、従来とは異なる事業分野への参入などに取組む際にはまとまった資金が必要となるため、より一層これらの意思決定が難しくなります。
しかし返済不要の補助金制度を活用することができれば、自己負担額を大きく削減できるため、新たなチャレンジがしやすくなります。
今回は個人事業主やフリーランスが使える補助金制度について、申請手続きの難易度順に4つ解説します。
▼ 目次
1. 【難易度:低】IT導入補助金
2. 【難易度:低】小規模事業者持続化補助金
3. 【難易度:中】ものづくり補助金
4. 【難易度:高】事業再構築補助金
5. まとめ
IT導入補助金とは、専用のソフトウェアを導入することによって日常業務を効率化させたり、顧客獲得のために新たにECサイトをオープンするなど、ITツールの導入によって業務効率化や売上アップに取り組む事業者を補助する制度です。
なおIT導入補助金を受けるためには、IT導入支援事業者として登録を受けているITベンダーからソフトウェア等を購入しなければならないのでご注意ください。
IT導入補助金では、「通常枠」であるA・B類型、「低感染リスク型ビジネス枠」であるC・D類型の合計4種類が用意されており、これらの4つの類型は導入するITツールが作用するプロセス数やその機能によって分類されます。
なお「通常枠」と「低感染リスク型ビジネス枠」では、それぞれ以下の経費が補助対象となります。
通常枠
ソフトウェアの購入費用及び関連する費用
低感染リスク型ビジネス枠
上記に加え、PCやスマートフォンなどのハードウェアのレンタル費用
したがって「低感染リスク型ビジネス枠」の方が補助対象経費の範囲が広く設定されています。
IT導入補助金によって交付される補助率や補助金額は以下のとおりです。
補助率:1/2
補助金額:A類型30~150万円未満、B類型150~450万円以内
補助率:2/3
補助金額:C類型30~450万円以内、D類型30~150万円以内
したがって補助対象となる経費が広いだけでなく、補助率や補助金額についても「低感染リスク型ビジネス枠」の方が手厚く支援されます。
なおIT導入補助金については「個人事業主・フリーランスがテレワーク導入で使える補助金や助成金について」にて詳しく解説していますので、ご参照ください。
先述したIT導入補助金が「ITツールの導入」のみにスポットを当てた制度であるのに対し、小規模事業者持続化補助金は新たな商品やサービスの開発コストだけでなく、ホームページ制作やweb広告などを含めた新規顧客獲得に必要な「開発から集客までの一連の取組み」を補助する制度のイメージです。
たとえば飲食店が新たにテイクアウトやオンライン販売を行う場合、専用商品の開発コストやネット注文システムの導入、広告宣伝活動などの経費が補助金の対象となります。
なお先述したIT導入補助金と同様、「一般型」と「低感染リスク型ビジネス枠」の2つが用意されています。
一般型の場合、補助対象となる経費は以下の13項目に該当する経費です。
・機械装置等費(一定の条件の下、中古品も可能。ただしパソコンなどの汎用性の高い支出は対象外)
・広報費(パンフレットやホームページ制作、インターネット広告など)
・展示会等出展費
・旅費(販路拡大に繋がる支出のみが対象。単なるセミナー参加等は不可)
・開発費(新商品の試作品や包装パッケージ開発に伴う原材料費やデザイン料など)
・資料購入費(事業遂行に必要不可欠な図書購入費など)
・雑役務費
・借料(販路拡大のためのイベント会場の賃料など。単なる事務所家賃は不可)
・専門家謝金
・専門家旅費
・設備処分費(補助対象経費総額の1/2が上限)
・委託費
・外注費
なお低感染リスク型ビジネス枠の場合には、上記13項目のうち「旅費」及び「専門家旅費」が除かれ、「低感染防止対策費(換気設備やアクリル板など)」が加わります。
制度の詳細については、小規模事業者持続化補助金ホームページをご確認ください。
小規模事業者持続化補助金によって交付される補助率や補助金額は以下のとおりです。
補助率:2/3
補助金額:最大50万円(ただし2020年1月1日以降に開業または設立した個人事業主や法人等の場合には最大100万円)
補助率:3/4
補助金額:最大100万円
IT導入補助金と比べると補助金額自体は少なく見えますが、その代わりに補助率が高く、自己負担額を圧縮できることが特徴です。
ものづくり補助金とは、新商品やサービスの開発、新たな生産ラインの導入などに必要となる設備投資に対し、一定の補助を行う制度です。「ものづくり」という言葉から、製造業向けの補助金制度と誤解されがちですが、ソフトウェアやアプリ開発などを行う事業者でも申請は可能です。
ものづくり補助金では「革新性」が重要なキーワードとなります。
唯一無二の新商品やサービスである必要はありませんが、すでに世の中にありふれたものでは採択される可能性は大きく下がるため、オリジナリティは必須となります。また単なる自社設備の更新では申請できないためご注意ください。
なおものづくり補助金では、「一般型」と海外事業への拡大を行う「グローバル展開型」が用意されていますが、事業者の大半は「一般型」として申請を行います。
さらに一般型は「通常枠」と「低感染リスク型ビジネス枠」に分かれます。
補助対象となる経費は以下のとおりです。
・機械装置・システム構築費(専用の機械やソフトウェア等の購入や制作など)
・運搬費
・技術導入費(知的財産権等の導入に要する経費)
・知的財産権等関連経費(弁理士の手続代行費用など)
・外注費(新商品・サービス開発に必要な加工、設計、デザイン料など)
・専門家経費
・クラウドサービス利用費
・原材料費(試作品開発に必要な原材料など)
なお一般型のうち「低感染リスク型ビジネス枠」に該当する場合には、さらに広告宣伝・販売促進費が加わり、グローバル展開型の場合には、海外旅費も対象となります。
ものづくり補助金によって交付される補助率や補助金額は以下のとおりです。
補助率:1/2(小規模事業者は2/3)
補助金額:最大1,000万円
補助率:2/3
補助金額:最大1,000万円
補助率:1/2(小規模事業者は2/3)
補助金額:最大3,000万円
したがって「通常枠」であっても、小規模事業者の場合には「低感染リスク型ビジネス枠」と同様の補助率が適用されます。
なお制度の詳細については、ものづくり補助事業公式ホームページをご確認ください。
事業再構築補助金とは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響が長期化し、既存事業の売上が減少する中で、現状を打開するために思い切って事業転換等を行う事業者を支援するための制度です。
たとえばアパレル店を営む事業者が、店頭売上の減少に伴い、新たにネット販売やサブスクリプション形式のビジネスを開始する場合や、ヨガ教室を営む事業者が生徒数減少の影響を受け、非対面型のオンライン専用ヨガ教室を新たに開始するような事例が該当します。
なお事業再構築補助金では、「通常枠」や「大規模賃金引上枠」、「卒業枠」、「グローバルV字回復枠」、「緊急事態宣言特別枠」、「最低賃金枠」の6つの類型が用意されています。
いずれの類型においても、事業再構築指針に示される「事業再構築」の定義を満たすことや、コロナ以前と比較して売上が10%以上(グローバルV字回復枠は15%以上)減少していることを要件とする「売上高等減少要件」を満たす必要があります。
制度の詳細については、事業再構築補助金ホームページをご確認ください。
補助対象となる経費は以下のとおりです。
・建物費(事業計画に必要不可欠な建物の建設や改修、撤去などに要する経費)
・機械装置・システム構築費
・運搬費
・技術導入費
・知的財産権等関連経費
・外注費
・専門家経費
・クラウドサービス利用費
・広告宣伝、販売促進費
・研修費
なお卒業枠やグローバルV字回復枠については、上記に加えて海外旅費も対象となります。事業再構築補助金では、他の補助金制度と異なり、建物費が補助対象経費に含まれている点が大きな特徴です。
事業再構築補助金によって交付される補助率や補助金額は以下のとおりです。
補助率:中小企業者等 2/3(補助金額が6,000万円超の部分は1/2)
中堅企業等 1/2(補助金額が4,000万円超の部分は1/3)
※中堅企業とは、資本金が10億円未満で中小企業者等に該当しない大規模な法人をいいます。
補助金額:最大8,000万円
従業員101人以上の大規模事業者向け
補助率:中小企業者等 2/3(補助金額が6,000万円超の部分は1/2)
中堅企業等 1/2(補助金額が6,000万円超の部分は1/3)
補助金額:最大1億円
今後3~5年以内に中堅・大企業への成長を目指す事業者向け
補助率: 2/3
補助金額:最大1億円
海外展開によってV字回復を目指す中堅企業向け
補助率: 1/2
補助金額:最大1億円
国の緊急事態宣言発令により深刻な影響を受け、早期に事業再構築が必要な飲食業や宿泊業等向け
補助率:中小企業者等 3/4、中堅企業等 2/3
補助金額:最大1,500万円
最低賃金引上げによって経営が圧迫され、事業再構築が必要な事業者向け
補助率:中小企業者等 3/4、中堅企業等 2/3
補助金額:最大1,500万円
今回は個人事業主やフリーランスでも申請可能な補助金制度を4つ解説しました。
補助金額の規模に比例して申請手続きも煩雑になる傾向がありますが、無事採択されれば自己負担額を圧縮することができるため、非常に大きなメリットがあります。
新たな挑戦を行う際には、何か使える補助金がないかどうか確認することをお勧めします。
服部大
2020年2月、30歳のときに愛知県名古屋市内にて税理士事務所を開業。
平均年齢が60歳を超える税理士業界内で数少ない若手税理士として、同年代の経営者やフリーランス、副業に取り組む方々にとっての良き相談相手となれるよう日々奮闘している。
顧問業務だけでなくスポットでの税務相談や執筆活動も行っており、「わかりにくい税金の世界」をわかりやすく伝えることができる専門家を志している。
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