都会の喧騒から逃れて、景色のいい場所でゆったり働きたい――。フリーランスとして自由を手に入れつつ働く方にとって、地方での暮らしは魅力ある選択肢のひとつです。
では実際、地方で暮らしながら柔軟な働き方を実現できるのか。仙台で働くライターである筆者が、地方在住ならではの現実的な視点で考えてみました。
▼ 目次
1. 地方でもフリーランスは働ける
1-1. 中核市や政令指定都市
1-2. フリーランス支援に注力している自治体
2. 地方でフリーランスが働く良さって?
2-1. ライバルが少ない
2-2. 混雑によるストレスが少ない
2-3. 相対的に家賃が安い
3. 地方でフリーランスが働くリスクは?
3-1. 仕事の総数が少ない
3-2. 人口減少の影響が大きい
3-3. 環境に不満が生じてしまうことも
4. 私のワークスタイル
4-1. 1日のワークスタイル
4-2. よく作業する場所
結論からいうと、地方でももちろんフリーランスとして働けます。特にライターやデザイナーのような職場にとらわれずに働ける職種なら、地方だから困るということは少ないでしょう。仙台で働く筆者の周囲にも、フリーランスとして活動している記者、デザイナー、カメラマンは多くいます。
憧れだけでフリーランスになったり、知らない土地に飛び込んだりするのは誰にとってもリスキーなこと。きちんと見通しを持ち、特徴を理解して事業を進めるなら、大都会でなければ仕事ができない、なんてことはないのです。
仕事の拠点を置くなら、過疎地域ではなく中核市や政令指定都市のような、中程度以上の規模の地域にするのが賢明です。中核市は人口20万人以上、政令指定都市は50万人以上で一定の行政機能を備えている都市です。
オンラインで完結できるものもあるとはいえ、地元企業への売り込みや対面のコミュニケーションも個人事業には欠かせません。企業の拠点が少なすぎるとオフラインのつながりが築きにくく、エリアによっては買い物難民になってしまうなど生活の課題も抱えることになります。
元々住んでいる、Uターンや移住など拠点を選ぶ背景は人によりますが、検討の余地があるなら仕事と生活が滞りなくできる規模の自治体を選ぶのが無難。交通事情によってはマイカー必須ですので、近隣の都市へのアクセスも要チェックです。
もうひとつ、フリーランスの拠点としてメリットが大きいのは、フリーランスや起業支援、移住者へのサポートが手厚い自治体です。
会社員であれば家賃や光熱費、通信費などの補助が出るケースもありますが、フリーランスではすべて固定費としてのしかかってきます。自治体の支援により出費を抑えることができれば、収支をより安定させることができます。
鹿児島県奄美市 奄美大島「フリーランスが最も働きやすい島化計画」
http://www.amami-freelance.com/
2015年にスタートし、2020年までに200名のフリーランス育成、50名以上のフリーランス移住を目標とした取り組み。フリーランスのノウハウ共有・交流を目的とした「フリーランス寺子屋」や住まい探しのサポートなど、市が積極的に支援。
徳島県神山町「神山アーティスト・イン・レジデンス」
https://www.asahi.com/and_travel/20181031/17449/
https://www.town.kamiyama.lg.jp/office/kyouikuiinkai/learning/no145.html
1999年にスタートした、国内外から数名のアーティストを呼び、毎年8月末から約2カ月間の滞在、制作および展覧会を行うプログラム。この滞在がきっかけで移住するフリーランスも。県が地上放送デジタル化と同時に県内全域の光ファイバー網を整備したためネット環境が良好。
自治体経由で移住や起業を進めた場合、収入の減少や住居の問題で困ったときにすぐに相談できるのも安心できるポイントです。
不用意な「田舎へ移住!」はおすすめできませんが、地方には大都会でないがゆえの良さもあります。自然の豊かさは一番に連想されるイメージかと思いますので、ここではそれ以外の、中規模以上の地方都市を想定してメリットを挙げてみます。
首都圏では、自分と同年齢で自分と同等以上のスキルを持ち合わせている人材は探せますが、地域によっては仕事をもらえる可能性があります。また、経済圏が小さめで自然と同業者のネットワークができ、自分の実力の現在地も把握しやすい傾向にあります。
地域の仕事仲間との関わりを生かすもよし、常にスキルをアップデートして「この仕事なら〇〇さん」と市場を席捲するのもよし。ただしコミュニティが狭いので、自己アピールや競争は、周囲との良好な関係を保つよう配慮しつつ取り組むことが大切です。
地方で働けば、東京23区のような押しつぶされるほどの満員電車で通勤する必要はありません。もっとも朝夕の通勤ラッシュ時は地方といえどもそれなりに混雑するため、通勤や移動のストレスを減らすためには打ち合わせやオフィスに出勤する時間を調整し、ラッシュを避けるようにしましょう。
商業施設や美術館、図書館といった施設は、平日であれば入館できないほど混雑することはほぼないでしょう。カフェや図書館などを活用し、気分転換しながら仕事を進めたい人にとって便利です。
首都圏と比べ、安くなるのが家賃です。
2020年3月時点で、1部屋(1K、1DK、1LDK)の賃料の平均は、最も高い東京都で68,181円、神奈川県が55,599円に対し、宮城県46,240円、愛知県49,775円などとなっています。
参考:全国賃貸管理ビジネス協会 全国家賃動向「2020年3月調査」
オンラインで都市部の企業や人材とのコミュニケーションをカバーしたり、出張時に打ち合わせを集中的にこなしたりすることで、地方で暮らしながら仕事を進められます。また、家賃が浮いた分自動車の使用に充てることで、取材などに対応できる範囲が広がり、交通事情による機会損失を回避できます。
このように地方で働く良さは多いものの、安定とは対照的な働き方であるフリーランスにはリスクがつきものです。その中でも、特に地方で気を付けたいポイントをまとめます。
人や建物で混みあっていない地方は、企業の拠点が都市部に比べて少ないです。
企業の絶対数が異なるため、地方の特性に合わせた事業展開が軌道に乗るような場合を除き、ビジネスチャンスが都内と比較して少ない環境である点は覚悟が必要です。
経済センサス基礎調査によると、全国35万の企業のうち、上位5都府県(東京都、大阪府、愛知県、神奈川県、福岡県)に本社を置いている企業は約15万にのぼります。1万以上の企業が本社を置いている都道府県は上位10自治体、その他の県は3,000前後。まさに「桁違い」の環境です。
そのような中で、クライアント企業が1社だけなど収入源が限られていると、契約が切れたときに次の仕事がすぐ見つからず、収入がなくなってしまうリスクもあります。居住地以外の地域の企業にも売り込みをしたり、Web活用でコミュニケーションを補いつつ複数企業と年間の契約を取り付けたりなど、仕事の確保とリスク分散はより慎重に行いましょう。
地方で働くなら、現時点では就業できても、10年後20年後にその場所で仕事をできるのか、という見通しや危機感は持っていなければなりません。いざという時都市部に転居できるだけの貯蓄をするか、人口の予測などを見て長期的に仕事を続けられそうなエリアを選ぶのがベターです。
都道府県別にみると、2018年時点で高齢化率(人口のうち65歳以上の割合)が25%未満の自治体は東京都、愛知県、沖縄県のみ。東北や四国地方など人口の少ない地域は30%を超えています。また、全国の過疎地域にあるおよそ6万の集落のうち、454集落は10年以内に消滅の可能性が高く、2,700以上の集落がいずれ消滅すると考えられています。
その地域の風潮などソフト面、IT環境や設備などハード面で、フリーランスという柔軟な働き方に合わず、環境への不満を感じる可能性もあります。
特に年配の方が多い地域では自由で不規則に働くフリーランスが良く思われなかったり、外出先ですきま時間に仕事をしようにも気軽にPCを使える環境がなかったりすることも考えられます。自治体や地元の有力企業がフリーランス・起業支援を掲げていれば一定の理解や環境が期待できますが、後ろ盾がない場合は本当にその地域で仕事を続けられそうか、慎重に検討しましょう。
執筆業である私のワークスタイルは至ってシンプル。現在会社員と個人の仕事を並行していますが、どちらも作業はPC+モニター1台が基本のスタイルです。Web会議・取材時はイヤホン、通話だけであればスマホのスピーカーをつけてキーボードを打てる状態でやりとりをします。
※現在は新型コロナウイルス感染対策に伴い、リモートワーク中心で勤務しております。
出社する日はいわゆる「普通の会社員」のスケジュールで仕事をしていますが、自分で時間を使える日は朝から夕方まで座り続けるより、集中力が続く2~3時間のかたまりで作業をすることが多いです。まとまった取材が入るときは一日中外出することもあります。
会社と違って夜に作業を入れたり、モチベーションが維持できている場合は長時間作業したりと、自分のコンディションに合わせて「勤務時間」にする感覚です。その分家事や買い物は日中に済ませておくと、夜にやることがたまり過ぎず快適です。
やはり原稿を書くには「落ち着いた雰囲気の場所」が合っているようで、個人的にはゆったりとした席のあるカフェでの作業が好きです。自宅周辺のカフェの電源・Wi-Fiの有無はすでに把握しているので、前後の予定や移動との兼ね合いを考えて場所を選びます。最近コワーキングスペースの利用も始めました。
しかし昨今は感染症対策のため、在宅ワークの比率が高め。座りっぱなしで家にこもっていると集中力にも影響してしまうため、良い姿勢を維持しやすい椅子用クッションを置いたり、Spotifyで洋楽を流したりと自分なりに快適な環境を模索中です。
地元や地方で働くことは、その地域にしかない魅力を知ることができる貴重な経験です。実際、東北で柔軟な働き方をしてみて心地よさを感じています。自分の意思で働き方を決めるからこそ、個人で活動する多くの方が、その地域を含めて仕事を好きになれることを願っています。
山口史津
ライター、編集者。 仙台で会社員と個人ライターの仕事を両立する「半分フリー」で活動中。企業採用サイト全記事取材・執筆・編集、書籍編集、インタビュー、校閲、コピーライティングなどWeb・紙媒体問わず取り組んでいる。映画「弥生、三月-君を愛した30年-」ロケ地インタビュー執筆。情報系の研究者インタビュー記事「研究を聴く」ほか実績多数。