不安定だけど柔軟、組織で働くデメリットを受けずに済む。そんなフリーランスは、キャリアに悩むことが多い女性にとっても注目すべき働き方です。
今回はフリーランスの良さ、気を付けたいポイントや、どのようなスキルや経験が生きてくるのか、筆者の経験も踏まえて掘り下げます。
▼ 目次
1. フリーランスとして働くメリット
1-1. 女性のライフイベントに対応しやすい
1-2. 平日に融通をきかせられる
1-3. 自分の得意なことに特化しやすい
2. デメリットや直面する悩み
2-1. パワハラ・セクハラを相談しにくい懸念がある
2-2. 妊娠~育児期間の収入減少の可能性が高い
3. フリーランス女性に向いている職業とは
3-1. ライティング、文筆業
3-2. Web制作
4. 経験から考える、フリーランスに必要なこと
4-1. 会社員経験は重要
4-2. 効率化と弱点カバーは先手を打つ
4-3. スキルをまとめ適度に自信を持つ
5. まとめ
フリーランスとして働くメリットを感じやすいのは、「自由さ」と「独立性」の面ではないでしょうか。
フリーランスであれば会社などと異なり自分でスケジュールを決めるのが基本です。パソコンを持参できれば一定の仕事はできることが多いため、場所も一か所に固定する必要はありません。
このメリットは、妊娠や不妊治療等で通院の機会が増えたときにも生きてきます。
フルタイム勤務では早退や欠勤、有給休暇を使う必要がありますが、フリーランスであれば自身でスケジュールをコントロールすることで、仕事を減らさずとも平日の診察などに行くことができます。
もちろん体調との相談は必要ですが、「仕事ができる状態なのに1時間の通院のために半日以上欠勤せざるを得ない」といったジレンマを回避できます。
男性の正社員の割合が男性労働者の約78%なのに対し、女性は44%(非正規は56%)と依然として雇用の不安定さが課題です(※)。
※参考:厚生労働省「平成30年版働く女性の概況」
そんな中、出産も仕事も諦めない道を模索する女性も多いでしょう。
フリーランスは、フルタイムの正社員か、パート・アルバイト等の非正規雇用かという極端な「二者択一」をしなくてもいいという選択肢になり得ます。
フリーランスは平日昼間を拘束されるフルタイム勤務(≒正社員)と異なり、仕事量にもよりますがある程度融通をきかせることができます。
女性に限らず、フルタイム勤務では平日に自分の時間を作れず、銀行や公的機関での用事を先送りしてしまったり、通院や家族の付き添いなどで困難な思いしたりする経験は誰もが抱えています。そんな生活上のストレスを軽減させられる働き方でもあるのです。
会社などの組織に属している場合と異なり、専門外の領域の仕事や、あまり得意でない業務を無理して行う必要性がなくなります。
本来の業務でない雑務を押し付けられることもなく、自分の得意不得意に合わせて仕事を取捨選択することができます。
得意な仕事に特化し専門性を高め、実績や競争力をつけていけば、組織に頼らず仕事をしていける自信もついてきます。
昇進・昇格やリーダーシップを発揮できる機会に関して男女差を感じている場合、思い切ってその環境を離れるという選択も見据えて、スキルアップに励むのも一つの方法です。
一方で、フリーランスゆえのデメリットも存在します。自由度が高いことは、責任がのしかかる裏返しでもあります。
フリーランスを対象としたアンケートで、約6割がパワハラ、約4割がセクハラを経験しているという調査結果があります(※)。
組織の後ろ盾がなく、コンプライアンス窓口のような通報先がないフリーランス女性は、残念ながらセクハラ・パワハラのターゲットにされてしまう可能性があります。
本来被害にあわないのが一番ですが、もしもの時のために連絡の記録を残しておいたり、必要に応じて録音をしたりといった対策を習慣化しておきましょう。
ハラスメントをする相手方は、報酬の不払いや契約不履行など労働問題に関わる不当な対応をすることも。会社に頼れない分、厚生労働省の総合労働相談コーナーなど公的機関にためらわず相談することが大切です。
※
参考:フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態アンケート
調査対象:日本国内で働いた経験のあるフリーランス(個人事業主、法人経営者、委託就労者、すきまワーカー、副業従事者を含む)
調査期間:2019年7月16日~8月26日
調査手法:インターネット調査
設問数 :全18問
回答者数:回答被験者数:1,222名
フリーランスは時間の融通がききやすい分通院などは行きやすい一方、雇用保険に加入していないため育児休業給付金は受給できなくなります。
育児休業給付金の受給額はおおよそ月給の6~7割(半年経過後は5割)にあたるため、働けない期間の家計に大きく影響します。
参考:厚労省 育児休業給付Q&A
・育児休業を開始した日前2年間に(雇用保険の)被保険者期間が12か月以上
・有期労働者の場合、同一の事業主の下で1年以上勤続、かつ子が1歳6か月までの間に労働契約が更新されないことが明らかでないこと など
いずれも育児休業終了後の職場復帰が前提となる
育児に備えて計画的に貯蓄をしたり、家族と協力したりして子育て費用を確保しなければなりません。
デメリット(リスク)を見るとやはり不安定さはついて回りますが、それでもフリーランスの働き方が肌に合う人にとっては魅力ある生き方です。
会社に合わせるのではなく自分に仕事を合わせることができ、筆者の周囲にも、先輩も含め独力で仕事を続ける人が多くいます。
筆者が考えるフリーランスと相性の良い職種をピックアップします。
以前の会社でも個人のつながりでも、ライティングを生業とする人は圧倒的に女性が多い印象です。
過酷な勤務環境である記者職でも、男性の採用が前提だった頃と異なり、近年では女性の採用割合が高まっています。
単純に女性だからライター業に向いていると言い切れるわけではありませんが、経験的に文章表現に取り組むことへの相性が良く、実際に長く続けている方も多くいる仕事です。
ライティングで生活していくには、実績(特に署名記事)を増やしたり、企業などの業務委託に応募したり、地道に書き続けましょう。
オープンにして問題ない情報であれば、書いた記事や取材した出来事などをSNSなどで発信することも重要です。経験と実績が充実してくると、それまでの縁がきっかけで取材や執筆の声がかかることも。
Web制作関連も、会社に属さずとも進めやすい職種が多いといえるでしょう。
Webサイトの制作は個人でもできますが、企業で進行する場合Webディレクター、アートディレクター、マーケター、ライター、コーダー、Webデザイナーなど多岐にわたる職種が関わります。
例えばIT関連のスタートアップ企業で職種を定めないオープンポジションに応募したり、副業可の企業に勤めたりして向上させたいスキルを磨き、まとまった仕事をこなせるようになったら個人の活動に切り替えていくといった方法が考えられます。
IT、Web関連の企業は比較的年齢層が若く、従来の価値観に囚われず自らのスキルを発揮したい、という女性にとっても働きやすい業界でもあります。
ライティング、Web制作ともに、事業を行うための大規模な設備は必要なく、個人でも調達可能な初期投資で始められるのが特徴です。
じっくり選ぶべきは作業の要となるパソコンとネット環境、長時間作業をしても疲れにくいデスクと椅子です。これらが準備できれば仕事はスタートできますので、他に必要なものは後から買い足しても問題ないでしょう。
フリーランス白書2020によると、個人事業主をはじめとするフリーランスの年収は、400万円までが45.4%を占めています。
同時に営業活動やマーケティングを積極的に行っているのは3割程度という集計もあり、泥臭く地道に信頼関係を構築していくことで年収を上げられる可能性があります。
同書では、フリーランスになる前会社に属していた人は95.2%。ほとんどの人は会社員経験があり、筆者も企業での勤務経験はフリーランスで働くために重要と考えています。
企業経験で学べるのは、一定以上の人数、複数の取引先が関わりながらプロジェクトを進行する流れです。
どの会社、人物が決定権(決裁権)を持っており、仕事を報告すべき先は誰(どこ)か、自分で負える責任の範囲はどの程度かなど、実践経験を通じて知ることができます。
ライティングや編集のような軸となるスキルは個人でもある程度向上させることができますが、自分の能力でプロジェクトを完遂できるのか、指導を受けるだけでなく他者にタスクを割り振ることができるかといった客観的な立ち位置を知るには、やはり組織で働く経験が必要です。
同時に予算内で仕事を完了させる必要に迫られるため、コスト意識も身に付けることができるでしょう。
自分の意思で自由に働けるだけに、過労に陥らないための効率化も大切です。
まずはタスクが発生した時点で、内容と期限のメモを一箇所に集約して記載することをおすすめします。
TrelloやTodoistといったタスク管理ツールを活用したり、カレンダーに記載したりと好きな方法で構いませんが、媒体を分けず一箇所にまとめるのが肝心です。
習慣化すると必然的に抱えている仕事の総量が可視化され、無理なスケジュールを組んでしまうことを防止できます。
毎月決まった書類の作成など、ノンコア業務に割く手間を減らす方法も考えておきましょう。
請求書や契約書の作成は、無料や個人向けプランで安価に利用できるクラウドサービスが多数ありますので、ためらわずに導入し、リソースを空けておくことで仕事を追加できます。
ノンコア業務で特に苦手な作業がある場合は、はじめから外部サービスに委託してしまうのも手です。
コア業務に集中できる環境を整えつつ、実績やポートフォリオを定期的に更新し、自分ができることを常に把握して仕事に臨みましょう。
コミュニケーション上控えめさや謙虚さも重要ですが、個人で仕事を獲得しなければならない以上、「自分に何ができるか」を明示できないと収入につながりません。
具体的に何ができるか、または扱えない仕事は何か、過去にはどんな仕事をしたかを提示すると、クライアントも安心して依頼しやすくなります。
自分のスキルをオーバーしていたり、極端に簡単な仕事を引き受けたりしないためにも、現在地の把握は欠かすことができません。
不安定であり、実力がものを言うシビアな世界ではありますが、自分で決断して仕事をするため、柔軟で納得感が高いのがフリーランスの良さです。
万人に向く働き方とはいえませんが、「ひとつの会社で定年までフルタイム勤務」以外の働き方として興味を持つ価値はあるのではないでしょうか。
山口史津
ライター、編集者。 仙台で会社員と個人ライターの仕事を両立する「半分フリー」で活動中。企業採用サイト全記事取材・執筆・編集、書籍編集、インタビュー、校閲、コピーライティングなどWeb・紙媒体問わず取り組んでいる。映画「弥生、三月-君を愛した30年-」ロケ地インタビュー執筆。情報系の研究者インタビュー記事「研究を聴く」ほか実績多数。